(上)「借金」背負いスタート~11年ぶり道マラ

08:45 まさかの「借金」背負ってスタート

11年ぶり3度目の挑戦
 うろこ雲が浮かぶ秋を予感させる青空の下、43歳にして11年ぶり3度目の北海道マラソンに挑む。気温は25度くらいか。寒冷地仕様の私にとって暑すぎではないけれど、直射日光が当たると涼しくはない。風が吹くとかなり涼しい・・・そんなコンディションだ。

 スタート地点の大通公園は、シリアスランナーと市民ランナーを区別するために、今大会も第1、第2の二つのブロックに区切る「ウェーブスタート」が導入されていた。要するにスタートを2回に分けて実施するもので、2万人近くのランナーが参加しているための策のようだ。

ちっとも前に進めない
 第1ウェーブの出走時刻が午前8時30分で、それから15分後の8時45分に号砲が鳴って、即スタート・・・ってなるはずが、なんせ2万人規模の大会だ。ぜんぜん前に進まない!想定通りのコトが進むことなんて、絵に描いた餅。まさに机上の空論だ!ってことを、序盤から思い知らされる。

 私のスタート順はほぼ最後列だったこともあり、「ほんとうのスタートライン」に立つまでに多くのランナーとともにトボトボと歩き、じわーっと加速してスタート地点の札幌テレビ塔前にたどり着いたときは、実に6分40秒ほどの時間が過ぎていた。

 にもかかわらず関門はすべて、「第2ウェーブのほんとうの号砲」すなわち午前8時45分をベースに設定されている・・・。

午前8時47分。第2ウェーブの出発時刻を過ぎてもスタートラインに立てない!

6分超の「負債」
 ということは、私は最初から6分超の遅れという「負債(マイナス)」を背負って、夏の道都を駆け抜けるハメになってしまった。このロスタイムが吉と出るか、凶と出るか・・・

08:52 車道は最高のランニングコース(って言える余裕があった)

 テレビ塔に見送られ、三越と新しい4プラのビルをかすめて、1km地点のやや手前がススキノだ。駅前通りを南下し、中島公園を正面に右に曲がり、パークホテルが右手に見えたら、中島公園通に入るために右に曲がる。

 ここからどんどん南進して幌平橋、中の島と、地下鉄南北線に沿って走って、中の島からさらに南へ向かって南平岸へと向かう。走っていると、幌平橋の上りと、南平岸へと向かう上り坂から見えるランナーの群れがすごい。思わずスマホのカメラを向けたくなる。

健康な人たちがススキノへまっしぐら


 ところで、歩道での普段のトレーニングとマラソン大会の違いってなんだろう? 東京マラソンとか北海道マラソンとか、都市部で開かれる大会の魅力を一言で言えば“車道を堂々と走れること”に尽きると思う。

 私たちが暮らしている日本という国は、自動車産業が国内経済の重要ポストを占めている。だから良い車道=車が快適に走行できる=車を走らせたいと思う=車を買いたいと思う=車が売れる・・・という論法が成り立つわけだ。

 そんな快適な車道を、エントリーさえすれば誰でも堂々と走れるのがマラソン大会の魅力だ。11年ぶりに札幌の車道を踏みしめながら、そんな感慨にひたれる余裕はあった。まだこの時は。

ニッカのおじさんも「ちゃんと走れよ」って言っているようないないような(たぶん後者)

09:25 5km関門閉鎖まで「8分切ってる」きわどさ

 スタート地点の中央区から豊平川を渡り豊平区へ。地下鉄南北線の南平岸駅前をすぎると、今度は平岸街道を北へと向かう。南北線の平岸駅、さらに東豊線の学園前駅へと進み、再び豊平川をわたって創成川通りに入る。

 途中、ブラスバンドの応援や、マンションや住居の窓越しに声援を送ってくれる人々が。ありがたい。うれしい。けどレースはまだ始まったばかりなんだ。私は夏場の練習不足がたたり、7分/km前後のペースを維持するのがやっと。学園前駅付近ですらスタートから7km、全行程の6分の1だ。

09:27 5km関門通過

5km関門。余裕時間は10分を切っている・・・

 スタートから42分。地下鉄南北線の平岸駅手前の5km関門を追加。普段の練習では30分前後で走破できる5kmの距離も、出発遅れや大量のランナーのおかげで思うように走ることができない。

 気温は徐々に上がってきているが、たまに涼しい風が吹くのがありがたい。

 再び豊平川を渡り、創成川通りへ。車道の地下トンネルを走行できるのがこの大会の目玉の一つでもあるが、このトンネルが微妙に、ボディーブローのように私の体力を奪い、そしてペース計画の「壊し屋」になろうとは、夢にも思っていなかった。

09:51 東の小魔物=創成トンネル

 創成川通の信号をたくさんパスできる地下トンネルの創成(そうせい)トンネル。ふだんは自動車専用の空間は、地下だし日差しが入らないから涼しいんだっけ? 記憶はすっかり薄らぎ、むしろ若干ウキウキして進んだら、全然違った。どことなく、いや確実に蒸し暑い。サウナほどではないが、外気温と明らかな差がある。北海道生まれ=寒冷地仕様の私の体が、じわじわと不快感を感じ始める。

 湿度が高いのか、空気の対流が全くないからか。屋外のほうが通気性が良く快適に思えるほど。とはいえここはトンネル内。スポーツウォッチのGPSが遮断され、自分がどのくらいのペースで何kmを走破したのか、正確な情報が分からなくなってしまった。

 不快感よりもこの「電波妨害」のほうがつらかった。実際の走行距離と、自分で計測している距離との差が400~500mほどにまで広がってしまったから。

 この後に控える新川通が「西の大魔物」だとしたら、創成トンネルは東の小魔物だ。トンネルへの下り坂があるということは、地上への上り坂もあるわけで。微妙に空気悪いし、なおかつGPSの電波入んないし。「ふだんは走れない(歩けない)」特別感というスパイスとランナーにとっては迷惑にも思える要素がケンカしはじめる。

 やっぱり地上のほうがいいかなって思っちゃう(その割には写真撮ってる)。

09:58 札幌の路上でシャワーを浴びる

 東の小魔物=創成トンネルの“魔物度”を跳ね上げる上り坂を過ぎてしばらくすると、札幌駅の高架手前に「シャワー」の看板が。いったんクールダウンする人多し。ほかのランナーも創成トンネルの攻撃を受けたのだろうか。


 横に5個、縦に3個ほど並んだシャワー口から雨粒のような水がどんどん出てくる。ありがたい。ありがたいけど、最初は「これがうわさに聞いたシャワーか!」と興奮し、帽子を脱ぐのを忘れて冷却効果が激減。幸い、進んだ先にもう1か所シャワーが設置されていて今度はしっかり冷やす。

 それでも創成トンネルで受けた妙な湿度の攻撃はぬぐいきれない。東の小魔物は湿度に弱い寒冷地仕様の私を脅かすのに、十分すぎる性能を発揮していた。もちろん、3~5kmおきの給水ポイントではしっかり水やスポーツドリンクをこまめにいただいた。

創成川通のシャワー。名物の迷惑度を打ち消す存在=ゆえにシャワーも名物か

10:01 10km関門通過

 札幌駅東側、創成通の10km地点は10時1分に通過。5km関門→10km関門の走行時間は34分台。だいぶ普段のペースに戻ってきた。周囲の混雑もかわせるようになってきた。練習不足の脚の調子は、それなりに上々だった。

 そしてこの先、北24条付近まで北上した後、ルートは西へと舵を切る。西へ。西へ。ひたすら西へ。その先に控えるのが、北海道マラソンのボスキャラともいえる新川通だ。幾多のランナーを棄権に追い込み、私も道マラに最後に挑戦した11年前もボスに挑んだが、あっけなく倒された。

 そう。本当の北海道マラソンは、まだ始まっていなかったんですよ・・・。